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札幌地方裁判所室蘭支部 昭和33年(わ)61号 判決 1958年7月16日

被告人 矢口昭雄 外一名

主文

被告人両名を各懲役三年六月に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人嘉門は昭和三一年五月頃より室蘭市御崎町所在の北海鉄板株式会社に臨時工員として稼働しをり、被告人矢口も亦同年六月頃より同会社に臨時工員となり、同三三年二月二〇日頃人員整理により右会社をやめ失業中のものであるが、右会社に稼働中職場を同一にした等のため相互に交際するに至り、たまたま同三三年四月四日正午過頃被告人矢口は失業保険金受領のため同市公園町所在職業安定所に赴き同様失業保険金受領に来所した斎藤鉄男(当時二二歳)に出逢い、相携えて同市輪西町に至り映画見物、飲酒等に時を過ごし、更に午後九時頃同市千歳町および浜町界隈の簡易料理店「松ちやん」同「小鳩」等において飲酒し、右簡易料理店「小鳩」において、来合せていた被告人嘉門等と相会し、飲酒を共にし、午後一二時半頃右の「小鳩」を出で、被告人嘉門、同矢口等相携えて同市浜町より海岸町附近を徘徊する内、翌五日午前一時過頃前記簡易料理店「松ちやん」方において当夜被告人等と同席飲酒していた汽般明昭丸船員川畑光丸(当時二十七歳)が帰船せんとして同市海岸町の国道三六号線の道路上を酔余歩行中、被告人等も亦相前後して同人に追尾し、同人が同市海岸町三六番地ウスヰ商店前附近路上に差蒐るや、被告人嘉門が矢庭に右川畑に近寄りこれに足払をかけて同人に暴行を開始するや、これを認めた被告人矢口も亦これに加勢し被告人等は手拳をもつて右川畑の顔面を数回殴打し、同人の頭髪等を掴まえ、同所附近の小暗い横小路に同人を引張り込み更に被告人等は共同して手拳をもつて右川畑の顔面部等を交々殴打し且つ同人の背部、腰部等を足蹴りにする等の暴行を加え、右川畑が抵抗能力を喪失したのを見計らい被告人等は意思を相通じ同人の所持する金品を強取せんことを企て「金を出せ、持つてる筈だ」等と申向け、同所に倒れ伏した右川畑をなおも続けて殴る蹴る等の暴行を加え、同人が全く抗拒不能に陥つたのに乗じて、同人よりその着用していたツートンこと半オーバー型上衣一着および腕時計一個、マフラー一本、靴ベラ等合計四点(時価合計金九、八五〇円相当)を剥ぎ取つてこれをいずれも強取し、その際右の暴行によつて右川畑に対し治療約二週間を要する顔面部、眼部、背部各打撲傷、右眼結膜血腫等の傷害を負わせたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人両名の判示強盗致傷の所為は刑法第二四〇条前段、第六〇条に各該当するところ、所定刑中各有期懲役刑を選択し、犯情憫諒すべきものがあるから、同法第六六条、第七一条、第六八条第三号を適用し、酌量減軽をした刑期の範囲で被告人両名を各懲役三年六月に処する。

(起訴についての判断)

本件は当初昭和三三年四月一九日付起訴状によつて公訴事実として、「被告人両名は共謀の上、第一、昭和三三年四月五日午前一時過頃室蘭市海岸町三六番地附近路上および小路において折柄同所を通行中の川畑光丸に因縁をつけ共同して同人の顔面を手拳をもつて数回殴打する等の暴行を加え因つて同人に対し全治約二週間を要する顔面、眼部、背部、打撲傷、右眼結膜血腫等の傷害を負わせ、第二、更に右川畑が前記共同暴行を受け反抗の気力を失つている機会に乗じ金品を強取しようと決意し同所において同人に対し「金を出せ」等と申向けながら両名交々手拳をもつて同人の顔面を殴打する等の暴行を加えて同人を同所に転倒せしめその反抗を完全に抑圧した上同人の着装していたツートン、腕時計等合計四点(時価合計九、八五〇円相当)を強取したものである」とし、第一を傷害、第二を強盗の各別罪として起訴したのであるが、当裁判所は公判審理の経過に鑑み、右の第二の強盗の訴因に対し訴因の修正方を勧告したところ、検察官は同年六月四日付にて訴因の予備的追加をなし、「被告人両名は共謀の上、同年四月五日午前一時過頃同市海岸町三六番地附近路上を通行中の川畑光丸を認めるや金品を強取せんと決意し両名共同して手拳をもつて同人の顔面を数回殴打した上附近小路に連行し更に「金を出せ」と申向け乍ら両名交々手拳をもつて同人の顔面を殴打し或は足蹴りにする等の暴行を加えて同所に転倒せしめその反抗を完全に抑圧して同人の着装していたツートン腕時計等合計四点(時価合計九、八五〇円相当)を強取しその際右暴行により同人に対し全治約二週間を要する顔面、眼部、背部打撲傷右眼結膜血腫等の傷害を負わせたものである」として共謀による強盗致傷罪の一罪として訴因を予備的に追加したのである。しかして当裁判所は前掲各証拠を綜合考察するに、被告人等の判示所為は当初の起訴の傷害と強盗とのそれぞれ独立した二個の犯罪行為ではなく、右の第一の傷害のために加えられた暴行が継続して加えられている内に金品強取の意図を以つて判示財物を被害者から強奪したものであつて、この意図の発現は暴行開始の直前乃至直後には十分被告人等両名に予見乃至予知せられていたものであつて被告人等の判示日時場所における前後の状況から判断するに被告人等が被害者に対し「金を出せ云々」と申向けたり、直接金品を物色して被害者の着衣等を捜検し始める以前に既に右の如き行為に出ずることを十分認容しつつ暴行を継続し前後の暴行を通じて被害者に判示の如き傷害の結果を発生せしめている本件としては暴行傷害と財物奪取とが相結合して強盗致傷の一罪を構成するものと認定するを以つて妥当なる見解とすべきである。

次に訴因の修正について検討するに、当初の起訴にかかる公訴事実は共謀による傷害と強盗との二罪としての見地に立つものであるが、これを共謀による強盗致傷の一罪として訴因の予備的追加をなした点も亦、強盗致傷罪が傷害と強盗との二個の所為の結合犯であるという点から訴訟法上適法な処置と解して誤り無きものと解すべく、右は公訴事実の同一性を維持しているものと見ることが出来る場合であり、予備的訴因について有罪認定をなしたのであるから当初の二個の訴因(傷害と強盗)について特に公訴棄却又は無罪等の処置を講ずる要なきものと解する。

以上によつて主文のように判決する。

(裁判官 畔柳桑太郎 藤本孝夫 小川昭二郎)

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